『マイ・ジェネレイション』で既に完成型だったザ・フー

 

 2017年最初の『Rock music column』、ザ・フーで始めます。本年も皆さん、宜しくお願いします。

 

 今更だが、世間一般の音楽リスナーがイメージするザ・フーとは、どんなものだろう?

 モッズ・カルチャーのリーダー、パンクの先駆者、独特な世界観の歌詞、壮大なロック・オペラ等等。とかくザ・フーはいろんな言葉で語られ、そのイメージ毎に多くのフォロワーを生み続けている。しかし、そのイメージをひとづつ検証していくと、どれも彼等のほんの一部分でしかない。

 

 この時代ではあり得なかったノイズと歪みきった音で強烈にヒットするピート・タウンゼントのギター。サウンドの低音部を完全に支配するジョン・エントウィッスルのベース。全てがフィルインのように常にやかましいキース・ムーンのドラム。ドスの効いたソウルフルなロジャー・ダルトリーのヴォーカル。バラバラの4人の音が見事にシンクロしているのが、ザ・フー本来の姿であり、その4つの個性を繋ぎ止め調和させているのが、バンドのコンポーザーでキー・マン、ピート・タウンゼントの持つ英国人独特のポップ・センスだ。

 

 60年代、次々とデビューしたブリティッシュ・ビート・グループは、アメリカ産の黒人音楽と共に、基本的にアイリッシュ・ミュージックの影響を受けている。アイリッシュ・ミュージックの特徴は、400年以上の長い歴史によって培われた、メジャー・コードを巧みに使ったシンプルで独特のメロディー・ラインだ。英国内では日常的な音楽で、一般の家庭にも深く浸透しており、後に移民によってアメリカにも波及してカントリー・ミュージックのルーツにもなっている。

 ビートルズのレノン&マッカートニーのコンビは言うに及ばず(ビートルズは更にスコットランド・ミュージックの影響もあり独特のコーラス・ワークを構築)、ローリング・ストーンズのミック・ジャガー、キース・リチャーズ、キンクスのレイ・ディビス、スモール・フェイセスのスティーヴ・マリオット、ロニー・レーン、etc。彼等はアメリカからやってきたブルース、ロックンロールの影響を受けながらも、英国人の本能として、内に潜在するメロディーを取り入れ、ポップなオリジナル・ナンバーを数多く世に送り出した。

 

 ロンドンに産まれたピートは両親がミュージシャンという家に育ち、幼い頃からアイリッシュ・ミュージックを始め、ミュージカル音楽やアメリカのジャズ等、あらゆるジャンルの音楽に慣れ親しんできた。それがやがて抜群のポップ・センスを身に付ける事になる。

 一方、キース、ジョン、そしてロジャーの3人は、ピートと同じくアイリッシュ・ミュージックの影響は受けているが、それ以上にロックンロールの持つ暴力性、破壊性、不良性に多大な影響を受ける。ザ・フーがモッズ・カルチャーのリーダーと認識されている由縁は、あくまでもデビュー時のヴィジュアル戦略がルーツであって、実際、ロジャーはモッズと敵対していたロッカーズ出身、非常に暴力的且つ反抗的な少年だったと言われている。

 ロジャーがやっていたザ・ディトゥアーズという不良バンドに、ロジャーの学校の後輩でスコーピオンズというジャズバンドをやっていたジョン、そしてジョンの友人でバンドメイトのピートが参加、最後にビーチコーマーズというパーティーバンドでドラムを叩いていたキースがオーディションで加入してバンドが出来上がった。

いろんな言葉で語られるザ・フーの本当の姿は、ピートが紡ぎ出すポップでキャッチーなメロディーと目茶苦茶で暴力的なサウンドという、本来は相容れるはずのないモノが見事に噛み合っている唯一無二、奇跡のバンドなのだ。

 

 昨年11月に新たにリリースされた、なんとCD5枚組にも及ぶザ・フーのファースト・アルバム『マイ・ジェネレイション/スーパー・デラックス・エディション』は、その唯一無二の原型が凝縮されている。

 ディスク1のリマスターされたオリジナル・アルバムのモノラル盤、ディスク2のオリジナル・アルバム・ステレオ盤(今回初CD化)、ディスク3のシングル曲+公式未発表音源、ディスク4の初CD化音源、そしてディスク5の非常に興味深い未発表を含むアルバム・デモ音源。正規の『マイ・ジェネレイション』×2に55曲をプラスしたヴォリューム。 因みにこの『マイ・ジェネレイション/スーパー・デラックス・エディション』だが、2月にはアナログ盤で発売が予定されており、モノラル・ヴァージョンのアルバムとボーナス盤、「プライマル・スクープ」というピートのデモ音源をセットにした3枚組セット、ステレオ・ヴァージョンのアルバムとボーナス盤の2枚組セットの2種類がリリースされる。ピートのデモ音源盤については、彼のポップ・センスを直接聴く事ができる非常に興味ある内容だ。

 

 アルバムのオープニングを飾る「アウト・イン・ザ・ストリート」や「キッズ・アー・オールライト」、「ラ・ラ・ラ・ライズ」等オリジナル曲における若者の鬱屈した気持ちを現す歌詞、ポップなメロディー、そして1960年代半ばとしては、殆どノイズのような暴力サウンドが見事にミックスされている。

 またカヴァー・ナンバーもジェームス・ブラウンが2曲(プリーズ・プリーズ・プリーズ、アイ・ドント・マインド)、ボ・ディドリーが1曲(アイム・ア・マン)収録。当時のブリティッシュ・グループは、リズム&ブルース、ブルースのカヴァーを演奏しなければならない風潮があったが、ザ・フーのカヴァーは音のラウドさ、荒っぽさが際立つが、何故か聴き易く、他のブリティッシュ・グループのカヴァーよりどこかポップだ。

 初CD化音源にもモータウンの誇る作曲チーム:ホーランド・ドジャー・ホーランドの楽曲(リーヴィング・ヒア)、マーサ&ザ・ヴァンデラス(恋はヒート・ウェイヴ)が収録されているが、こちらも暴力的なサウンドでありながら、原曲のポップさをしっかりと残している。バンドの際立った演奏力とピート・タウンセントのアレンジメント・センスが秀逸だ。同じロンドン出身で先にメジャーになったローリング・ストーンズ、ヤードバーズ等のブルース傾向とは違う、ポップ性を重要視しているカヴァー・センスはビートルズに匹敵する。

 こうしたカヴァーと破天荒なサウンドが、ファッションと相まってモッズ・カルチャーの代表バンドとしてイメージを残したと考えられる。このサウンドに、ギターを壊すパフォーマンスがプラスされた荒っぽいライヴは、まさにパンクの先駆者。ザ・フーの持つサウンドとポップ・センスの遺伝子は、70年代にセックスピストルズが「恋のピンチヒッター」、ポール・ウェラーのザ・ジャムは「ソー・サッド・アバウト・アス」、ザ・フー・ヴァージョンの「恋はヒート・ウェイヴ」をカヴァー、更に80年代後半以降、英国のロック・シーンに続々と現れたパワー・ポップ・バンド達に受け継がれている。

 

 通常バンドとは、キャリアを重ねていくにつれ音に年輪が刻まれ、ああ、○○だな、とか、コレ、××でしょ?と、一聴してリスナーが聴き分けられるケースが多い。しかしザ・フーに関しては、そういった慣例的なモノを超越している。このファースト・アルバム『マイ・ジェネレイション』を聴けば、ポップと暴力がミックスされたサウンド、独特の世界観が既に完成間近であり、後の英国ポップのプロト・タイプに繋がっていく事が判る。

 

Text by 金子ヒロム